ルネサンスとは何か?



現在は、特別な時代です


ルネサンスは、人類史上もっとも大きな文化と文明の大転換期でした。
しかし、それを超える凄い変化、あるいは、意識の流れを再び逆転させる激動が、現在起きています。
そのムーブメントは『セカンド・ルネサンス』と呼ばれますが、このページではその理由と名称の由縁を解説します。

その際、理解の助けになってくれるのは『メタバース』です。
2021年末、facebook社がメタバースに大きく舵をきり、社名をMeta社に変更したことで『メタバース』は一気にバズワードとなりました。
今では表面的なブームはおさまりましたが、実はメタバースにはとても大きな文化史的な意味があります。
メタバースが世界を変えることはありませんが、それは世界の変化を表現しているからです。

ちょうどレオナルド・ダ・ヴィンチやブルネレスキの開発した『遠近法』がルネサンスの変化を表したように、『メタバース』はセカンド・ルネサンスの特異性を象徴してくれるからです。
『遠近法』はちょっと専門的な単語ですが、その原理などもあわせて解説します。

ルネサンスで何が変わったのか?


まずは、ルネサンスに起きた変化を見ていきましょう。

ルネサンスの変化をひと言に集約すれば、それは『逆算思考』です。
わたしたちは、ものごとを結果から考える術(バックキャスティング)を身につけていますが、その思考法はルネサンスから始まりました。
それまでの時代は、全部『積み上げ式』の思考でした。
思考の流れを逆転させたのが、ルネサンスだったのです。
そして、同時代的な精神はあらゆる分野に出現します。

具体的には、星の運行を精緻に記録することで、天動説から地動説への転回を導き出したコペルニクス。
反転した活版によって大量印刷を可能にしたグーテンベルク。
視点から一番遠い場所を最初に描く遠近法を確立したレオナルド・ダ・ヴィンチ。
いずれも、既存の常識を『反転』させた賢者たちです。

中でも、ダ・ヴィンチらによって確立された絵画技法『リニア・パースペクティブ(線的遠近法:以下「遠近法」』は象徴的でした。
それは、世界を捉える視点が『神』から『人』に移ったことを表したからです。

ルネサンス以前の時代を『中世』と呼びますが、中世の絵画は神の視点で捉えられた観念的な空間でした。
その特徴は、限界が無いことです。
平行線は本来交わらないまま『無限』に伸びている二本の線であり、中世の絵画をその原理を表していました。
なので、『絵』というよりは『図』に近かった感じです。
源氏物語絵巻などもそうですが、ルネサンス以前の絵画において平行線は交わりません。
なぜなら、神はあらゆる場所に存在するため、『遠い・近い』といった物理的な距離は重視されなかったのです。

同じように、時間的には『永遠』が指向され、平和な毎日が続くことが求められました。
終わり(END)のない(LESSな)状態が理想だったのです。

・時間意識:永遠/変化を嫌い、くり返しを好む=ENDLESS
・空間意識:無限/原理的には、限界がない

ジョットの絵画
中世の時間と空間意識の特徴


一方、ルネサンス以降の時代は『近代』と呼ばれますが、その特徴は終わりを強く意識することです。
時間意識に関しては、ゴールからの逆算でものごと計画する技術と感性が育てられました。
また、空間に関しては人間の目を視点にして、遠くにあるものを小さく、近くにあるものを大きく描く、『遠近法』が生まれます。
ルネサンス以降の絵画では、平行線は交わるようになりました。
それは、視点が『人』だからです。

世界は『神』ではなく『人』によって統治される世界に代わりましたが、それは人間の『限界』を強く意識することでした。
その意識の転回こそ、人類史上もっとも大きな変化だったのです。

・時間意識:逆算/変化を好み、ENDから考える
・空間意識:有限/視点と消失点という限界を基準にする

最後の晩餐/レオナルド・ダ・ヴィンチ
中世と近代の時間と空間意識の比較

メタバースは中世とルネサンスの複合


そして、メタバースはそのルネサンスに勝るとも劣らない大転回の象徴と言えます。
というのも、メタバース空間は上記2つの(一見、矛盾する)特徴をあわせ持つ、言わば『神の視点』『人間の視点』の融合だからです。

時間意識で言えば、メタバース空間には物理的な劣化がありません。
記録された2D・3D・動画データは、そのままの状態で保存され続けます。
もちろん『人間の文明が続く限り』という条件つきですが、そこには『永遠』への指向がよみがえっているのです。
また、リサイクルやSDGSのような、持続可能性の追求ともシンクロしています。

そして、空間的にはリニア・パースペクティブ的でありながら、限界がありません。
X軸・Y軸・Z軸でつくられる、極めて幾何学的な空間でありつつ、原理的には無限に拡張できるからです。
メタバース空間では、人間の視界の限界である消失点に向かって、延々と進み続けることができます。

・時間意識:劣化の回避/一旦はENDを目指しつつ、持続可能性を重視
・空間意識:限界の拡張/消失点に向けて無限に進むことができる

メタバース空間のサンプル
メタバースの時間と空間意識の特徴


さらに言えば、かつて『物理空間 → 情報空間』だったコミュニケーションの流れは、今後は逆転し、バーチャル空間が先行することになるでしょう。
リアルに名刺交換をした人とFacebookでつながっていたところから、バーチャル空間で先に出会い、やがてオフ会などでリアルに顔をあわせる感じです。
『情報空間で出会い → 物理空間で対面』する流れの逆転ですね。
その点も、コペルニクス的転回を思わせます。

つまり、ルネサンスで起きた変化と同じくらい大きな変化が起きようとしているという意味で、それは『セカンド(2回目の)・ルネサンス』と呼ばれます。
一方、『神(=人以外)から『人』への視点の移動がルネサンスだったとすれば、『人』から『AI(=人以外)』に視点が移ることは『リバース(逆転の)・ルネサンス』と言えます。
いずれにせよ、わたしたちはとても珍しい時代に生きているのであり、メタバースはそうした大変化の文化的象徴なのです。

いずれにせよ、『地球上でもっとも賢い存在』は、再び人間ではなくなります。
それは、けして卑下することではなく、公害や他の種族を絶滅させるなどの、行き過ぎた人間中心主義の傲慢さをいさめるムーブメントとも考えられます。

中世的な謙虚さと、近代的な自信をあわせ持つことができれば、この時代を存分に楽しむことができるでしょう。